古都の佇まいを残した金沢・二俣町。ようやく春の訪れたある日、町の中学校ではかつて生徒たちが「10年後の自分に宛てた手紙」を収めたタイムカプセルを掘り起こす記念式典が行われていた。式典には、この町で代々郵便局長を務めてきた大森家の長、大森源司や彼の長男・恒一の妻、早穂子も出席していた。金沢市内の郵便局に外務員として30年間、配達の仕事に携わってきた大森恒一は、父源司が局長を引退した際も、町の人ひとりひとりと関わる仕事が好きだからと、局長の座は妹・二三子に譲り、自分は頑として配達の仕事から変わろうとはしなかった。手紙は送り主の「心」そのもの。恒一には手紙を受け取る人々の笑顔に出会えることが何よりの喜びだった。山道が土砂に埋もれ通行不能になっていても、郵便バイクを残し徒歩で配達に向かう。山に囲まれた集落で一人暮らしをしている年寄りたちもまた、息子のような恒一の訪問を心待ちにしていた。年寄りたちは、町でちょっとした使いを頼みたいときなど、玄関先に黄色い旗を掲げておく。公共料金の支払いや、病院での薬の受け取りなどを頼むのだ。子ども時代から顔見知りの恒一に「お駄賃」と飴玉の包みを手渡しながら…。
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