ハマナスやセンダイハギの美しく咲き乱れる北海道の百人浜で、一人の少女と一人の青年が会った。少女はいつもルンナという若駒を連れていた。二人は毎日のように会い、駒を走らせ、アイヌの古老の話に耳を傾け、そして湖の周りを散歩した。青年の家も少女の家も貧しく、生きるだけがせい一杯の生活だったが、そんな中で、二人の間に愛が芽生えていった。長い冬が過ぎ、ようやく春が訪れた時、青年と少女は幸せな生活を求めて東京に出た。青年は印刷所の工員になり、少女は喫茶店のウェートレスになって働き始めた。少女は仕事が終るとタイプの学校にとんでいく。そんな毎日が過ぎて、日曜日が来ると、青年と少女は楽しい語らいの時を持つのだった。そして、夜更けの道を少女を送りとどけた青年は、次の日曜日の再会を楽しみに別れた。仕事に追われる毎日が過ぎ、楽しい日曜日が何度か過ぎていった。ある日曜日、約束の場所に少女は姿を見せなかった。青年は下宿に行ったが、そこにもいなかった。その頃、少女は“あいつ”と呼ばれる男のスポーツカーに乗って走っていた。少女の髪型や衣裳は、以前のつつましいものから、派手なものに変っていた。少女は、求めていた幸せとは金であり豪華な服だと思うようになったのだ。しかし、“あいつ”はやがて新妻を連れて少女の前に現われると、十万円を渡し、アメリカに行ってしまった。傷ついた少女は青年と会った。少女の心にはやすらぎが戻り以前の純真な少女に帰った。だが“あいつ”とのことは記憶から消えるはずもなく、翌日、少女はボートで羽田沖に出て再び帰らなかった。その頃、青年は輪転機に指をかまれ、病院の一室で、少女に会わなければならないと呼びつづけていた。
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