その日、小樽の北見家は二重の喜びにわいた。北洋で遭難した長男太一郎が救助されて戻ったのと、東京から大学生の次男洋二がひょっこり帰って来たからだ。だが洋二の心は、度重なるストや学校閉鎖で暗かった。太一郎に叱咤され、学問や人生に疑問を抱く洋二は、ますます悩んだ。そんな時に会ったのが、幼な友だちの克之だった。捕鯨船で鍛えあげた克之の肌には、人生に対する自信が満ちあふれていた。洋二は早速同じ村に住む捕鯨砲手大垣に南氷洋行きを頼んだ。日本水産第二図南丸船団が神戸港を出航しためは、十一月上旬だった。出航を前に、克之は生みの母節子に会った。節子は、生活苦のため捨てたわが子の成長に感激、克之もまた「誕生したことが、僕にとっては意義がある」と働くことのよろこびを洋二に語った。洋二にとって、整備作業は厳しいものだった。船では一人の過失が、全員のそして、家族にまで災難を及ぼす。洋二は、克之の忠告をバックに、同僚や仕事に同化していった。乗組員には、さまざまな人生を送った男たちが乗り組んでいた。洋二は彼らと接し、いろいろな人生を知って新年を迎えた。鯨漁解禁日が来た。洋二は大垣砲手が乗る第27興南丸に移り、新ルートによる探鯨を始めた。だが数日を経ても鯨は見つからず、キャッチャーの船長らは動揺、針路変更について話しあった。皆を制して黙々と鯨を追う大垣。ワッチから洋上を見張る洋二。「鯨発見!」の声と同時に、船が全速力で追跡をはじめた。大垣が確実に鯨を射とめていく。鯨と人間の死闘、そして、射止めた鯨を大庖丁一つで手早く切りきざむ母船甲板員の血みどろの活躍。洋二の顔には男の自信と喜びが満ち溢れていた。
影视行业信息《免责声明》I 违法和不良信息举报电话:4006018900