織物の図案を書いて生計をたてる相沢知子と、名もない小説家小杉慎吾、それに慎吾の妻のゆきとの、奇妙な関係はもう八年も続いている。そんな長い年月、知子とゆきは一面識もなかったが、お互いが認め合い、慎吾は江の島の自宅と、東京の知子の下宿を、一週間に二度づつ往復していた。ところがこの奇妙な関係も、知子がお得意先で偶然出逢ったかつての恋人、木下涼太の出現によって、亀裂を生じはじめた。彼は、仙台で開業医をしていた知子の夫佐山が、市会議員に立候補した時アルバイトに来ていた学生で、知子はこの涼太と不倫の関係を結び夫のもとを離れたが、その結末は破局に終ったのだった。あれから八年、知子は、慎吾との新しい生活に入っていたが、涼太は小さな広告代理店に勤め貧しい生活を送っていた。知子は自分が彼を陥れたと、自己嫌悪に悩んだあげく、ふたたび二人は昔の関係に戻った。慎吾の目を盗んでは、何くれと世話をやく知子の姿が、涼太にはいとおしく、又それは慎吾に対する嫉妬と変り、慎吾と別れて結婚してくれとせまった。しかし、涼太の言葉も、“妾同然の生活”と罵る友人の言葉も、知子には何故か慎吾をふりきる決心とはならなかった。それはいつかは、妻と別れて慎吾が自分の許に来るという、彼女の自信でもあったのだ。しかし、別れは以外に早く訪れた、慎吾の許へ来た妻ゆきの手紙をよんだ知子は彼が妻を愛している事を知ったのだ。初めて訪れた江の島の家に「涼太との愛は、あなたとお別れすることにのみ必要だったようです。二度も涼太の運命を傷つけた事が悔まれます」と手紙をしたため涼太とも別れ、一人寂しく旅に出かけた。夏も、終りに近い日の事である。
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